卒業生ご紹介


保育福祉科 夜間主コース(トワイライトクラス)
卒業生インタビュー
大山 遥さん 2018卒業
NPO法人チャイボラ 代表理事
【卒業生インタビュー】「知られていない」から「当たり前」へ。保育の未来を創る、一人の卒業生の挑戦。
「保育士の働く場所は、保育園だけじゃない」
在学中のある気づきを原動力に、社会的養護の分野で活躍する保育士を支えるプラットフォームを立ち上げた卒業生がいます。NPO法人チャイボラ代表理事、大山さんです。
学生時代のサークル活動から始まった取り組みは、今や全国の児童養護施設の半数以上が登録する国内唯一のサービスに成長。その情熱の源泉、そして在学生や未来の保育士へのメッセージを伺いました。
すべての始まりは、教室での「なぜ?」から
――本校で学んでいた頃の思い出や、印象に残っている先生について教えてください。
「もともと児童養護施設で働くことを目指して入学したので、社会的養護を教えていた恩師の先生の授業は、今でもはっきりと覚えています。施設の現場で長く働かれていた先生で、そのリアルな話は、多くの学生の心を動かしました。『保育士の資格は、こんなにも多様な場所で求められているんだ』と、たくさんの学生が気づいた瞬間でした。」
その気づきは、大山さんのクラスに大きな変化をもたらします。一時、クラスの3分の1もの学生が、保育園ではなく児童養護施設などの「社会的養護施設」への就職を希望したのです。
しかし、その数ヶ月後、ほとんどの学生は再び保育園へと進路を戻してしまいました。
「理由を聞くと、みんな口を揃えて『検索しても、施設の求人情報が全然出てこない』と。施設には国や自治体から支給される公費の中に、広報費という科目がなく、ホームページすら持たない所も多かったんです。興味はあるのに、どんな仕事で、どんな人が働いているのか、お給料は…?何もわからない。『自分たちは、お呼びでないのかな』、そう言って諦めてしまう学生の姿を見て、強く思いました。誰かがこの情報を学生に届けられれば、未来は変わるんじゃないか、と。」
この課題意識こそが、チャイボラの原点。施設の情報を学生に届けるプラットフォーム「チャボナビ」の最初の企画書は、パワーポイントで作成し、恩師である今井先生に相談したと言います。先生の協力もあり、初めはサークル活動として、子どもたちと遊ぶボランティアからスタートしました。
「採用を意識したイベントだと、まだ何も知らない学生は来てくれない。でも『子どもたちと遊びに行くボランティア』なら、と企画したら、他校からも学生が集まるほど大盛況でした。ミーティングはいつも学校の教室。夜まで教室を貸してもらい、仲間たちと語り合った日々が、私たちの活動の原点です。」
遊びから学びへ。日本で唯一のプラットフォーム「チャボナビ」の誕生
ボランティア活動から一歩進み、「施設のお仕事を知ろう」という見学会を開催すると、1日で40名弱の学生が集まり、実際の内定者も生まれました。そこから知名度は一気に上がり、都内の施設から次々と見学会の依頼が舞い込むようになります。
「当時、そうした活動をする団体は他になく、社会的養護分野の職員確保・定着支援は、今でも日本で私たちだけです。私たちが施設の『見学会』という文化を作ったと言っても過言ではありません。」
現在、CHIBORAの活動は大きく5つの柱で展開されています。
- 興味喚起:全国の養成校での出張授業
- 接点創出:社会的養護総合情報サイト「チャボナビ」の運営
- 理解促進:施設見学会の企画・サポート
- 離職防止:内定者・新人向け研修「チャボゼミ」の実施
- 定着支援:現役職員向けの研修・交流の場の創出
「『チャボゼミ』は、内定辞退や早期離職を防ぐための重要な取り組みです。施設では同期がいないことも多く、孤独になりがち。そこで、内定時期から全国の同期とオンラインで繋がる場を提供しています。北海道の児童養護施設の子と、沖縄の乳児院の子が画面越しに語り合う。それだけで『一人じゃない』と思えるんです。」
喜びと、乗り越えるべき課題
――活動を続ける中での喜びや、今の課題は何でしょうか?
「やはり施設の方から『チャボナビで採用が決まったよ』『チャイボラのおかげで、自分たちにも出来ることがあると知れた』といった声をいただくのが一番の励みです。サービスを提供する側からの声が、私たちの原動力ですね。」
一方で、大きな課題は資金面。チャイボラの基幹事業である「チャボナビ」は、施設の経営規模に関わらず利用できるよう、掲載料を一切取っていません。
「私たちが有料化すれば、資金力のある施設だけが有利になり、人材確保の格差をさらに広げてしまう。それは、子どもたちが自分の入る施設を選べない『施設ガチャ』という問題を助長しかねません。私たちの目的は、あくまで社会課題の解決。だからこそ、今は寄付や助成金、一部の研修事業収入で運営しています。」
毎年数千万円単位の寄付を集めるのは、並大抵のことではありません。子どもへの直接支援に比べ、チャイボラのような「大人(職員)への支援」は活動内容が伝わりにくく、資金調達の難しさに直面していると語ります。
描く未来。保育業界の「当たり前」を変えるために
――今後のビジョンについて教えてください。
「来年からは、施設の組織課題にまで踏み込むコンサルティング事業に挑戦します。これまでは人材確保という『入り口』の支援が中心でしたが、本当の意味で子どもの養育環境を良くするためには、施設の中に入り込み、課題を一緒に解決していく必要があると感じています。」
さらに、その視線は保育業界の枠を超えます。
「教育学部の学生たちに、社会的養護の現状を知ってもらうことにも力を入れたい。学校の先生になる人たちが、クラスにいるかもしれない施設の子どもたちの背景を知らない。これは大きな問題です。教職課程のカリキュラムを変えるのは数十年かかると言われましたが、悔しいからこそ挑戦したいですね。」
高校生への認知拡大、そして保育士を目指す学生そのものを増やすことにも貢献していきたいと、大山さんの挑戦は続きます。
後輩たちへ。「チーム養育」という視点を持って
――最後に、保育士を目指す学生たちへメッセージをお願いします。
「施設で働く上で何より大切なのは、『子どもの最善の利益を考えて、チームで関わること』です。これを『チーム養育』と呼んでいます。自分の考えだけでなく、周りの意見を聞き、チームとして子どもを育てていく。時には自分の感情を横に置いて、子どもの人生のために最善の判断を下さなければならない場面もあります。」
「学生時代には分からないことばかりだと思います。だからこそ、ぜひ施設の見学会に参加してみてください。数時間そこにいるだけでも、知識も見える景色も全く変わってきます。私たちのプラットフォームが、その一歩を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。」