保育士コラム
保育士コラム
公開日:2020年11月30日 更新日:2024年3月15日
児童養護施設とは、保護者による虐待やネグレクト、経済的困窮、死別、逮捕など、何らかの事情で保護者のもとで生活できない子どもたちが入所し、生活をする施設のことです。
そんな児童養護施設では、どのような職種が必要とされており、児童養護施設で働くためにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、児童養護施設で必要とされる職種や必要な資格、就職の方法などについて解説します。
※【動画】児童養護施設とはどんなところ?児教専×聖友学園
目次
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児童養護施設では、児童福祉法によって配置すべき職員が定められています。
児童に対して必要な職員の配置人数の割合は、職種や児童の年齢などによって異なりますが、児童養護施設では、施設長をはじめ、主に次のような職員の配置が必要です。
親などの保護者に代わって、施設で生活を送る18歳まで(場合によっては20歳まで)の児童が健全に生活・成長できるように指導をします。指導というとやや堅苦しいイメージがありますが、着替えや食事、勉強や他者との付き合い方など、生きていく上での基本的なことをサポートするような役割を担っています。
保育士というと小学校入学前の6歳児以下の乳幼児と接するイメージがありますが、児童養護施設では入所しているすべての児童と接します。児童指導員と一緒に児童の生活の指導やサポートを行います。
別名「ファミリーソーシャルワーカー」とも呼ばれ、児童相談所や保護者などと連携をとりながら、施設に入所している児童の家庭復帰へのサポートや、里親委託などへの支援、施設を退所した児童のフォローなどを行います。
虐待を受けた経験があるなど、何らの事情で個別の問題を抱えている子どもに対して個別にケアを行う職員を指します。対象となる子どもだけではなく、保護者への援助なども行います。
入所している児童に対して、カウンセリングなどの心理療法によって心理面のケアを行う仕事です。また、心理療法の専門家という立場から、他の職員へのアドバイスを行ったり、児童だけではなく保護者に対して心理療法を行うこともあります。ケアを必要とする児童が10人以上いる場合は配置が必要です。
疾病予防や薬の投薬、服薬管理、衛生管理など、入所児童の健康管理を行います。乳児がいる場合は、乳児1.6人に対して1人の割合での配置が義務付けられています。
入所している子どもたちの栄養管理や食事の提供を行います。ただし、調理員に関しては、調理業務を全部委託する場合は必ずしも配置の必要はなく、また、栄養士に関しても40人以下の施設であれば配置しないことも可能です。
ここまで、児童養護施設において配置が必要とされている職種についてご紹介してきましたが、それぞれの職種に就くためにはどのような資格が必要なのでしょうか。
職種別に必要な資格の種類と概要をまとめてみました。
児童指導員任用資格をとるためには、特別な試験を受ける必要はありませんが、一例として、
など、「児童福祉施設最低基準」と呼ばれる要件のいずれかを満たしていることが必要です。
保育士資格を取得するには、国家試験を受けるまたは保育士養成機関を卒業するという2つの方法があります。保育士養成機関とは、厚生労働大臣が指定する保育士を養成する学校(大学や専門学校)の事で、卒業とともに保育士資格を取得する事ができます。
保育士試験は、これらの学校を卒業していなくても受験資格があり、国家試験に合格すれば保育士資格の取得は可能です。
ただし、約20%程度と言われる保育士国家試験の合格率を考えると、養成機関に入学する方が保育士になるためには確実な方法かもしれません。
家庭支援相談員になるためには、国家資格である社会福祉士または精神福祉士の資格を取得していること、または、児童養護施設にて5年以上勤務し児童養育業務に従事した経験があることが条件となります。
個別対応職員になるためには、日本臨床心理士資格認定協会が認定する「臨床心理士資格」を取得していることや、心理系の大学院を卒業していることなどが主な条件となっています。
心理療法担当職員になるためには、大学にて心理学を専修する学科やそれに相当する課程を修めた上で卒業していることが条件となります。また、個人や集団心理療法の技術を身に付けていることなども求められます。
嘱託医の場合は、医師であることが前提ですから、大学の医学部で6年間学んだのち、医師国家試験に合格し、さらに臨床研修医として2年以上の経験を積むことが必要です。また、看護師についても、国家資格である「看護師資格」の取得が必要です。
また、受験資格を得るために、4年生の大学や3年生の短大、専門学校などを卒業する必要があります。
栄養士は、4年生大学や短大、専門学校などの「栄養士養成施設」を卒業し、国家資格である「栄養士資格」を取得する必要があります。
また、調理師については調理師学校で1年以上勉強し、卒業すること、または飲食店などで2年以上の実務経験を積み、調理師試験に合格することで調理師免許の取得が可能です。
ここまで、児童養護施設で働く上で必要な資格についてご紹介してきましたが、実際に児童養護施設で働くには、その施設が公立であるか、私立(民間委託)であるかによって違います。
なお、現在公立の児童養護施設というの減少傾向にあり、圧倒的に私立の児童養護施設が多くなっています。
公立の児童養護施設で働く場合は、必要な資格を取得した上で、公務員試験に合格する必要があります。
採用方法は自治体によって違うので、自分の希望する児童養護施設がどのような募集を行っているか、あらかじめ情報を把握しておく必要があるでしょう。
私立の児童養護施設で働く場合は、施設を運営する法人独自の採用方法を行っています。
公立の児童養護施設では公務員試験を受ける必要があるため、基本的にチャンスは年1回しかありませんが、私立の児童養護施設であれば、必要に応じてその都度採用を行っていますし、そもそもの数も多いため、比較的就職のチャンスは多いといえるでしょう。
児童養護施設に暮らすこども達は、「あたり前の生活」を経験できずに過ごしてきた子がとても多いです。朝起きると、あたり前に朝ご飯を作ってもらい、温かくて栄養のあるご飯が毎日食べられることや、季節や気候に応じた洋服を着せてもらい、あたり前に毎日お風呂に入り、あたり前に夜になるとお布団で眠る。こどもであれば「あたり前」に与えられるべき、このような生活が保障されずに過ごす毎日は、落ち着かず、不安や恐怖、心地悪さ、不快感と隣り合わせですね。
事情のある家庭から保護されたこども達は、心身の発達が大きく妨げられていることが多いので、心理療法やカウンセリング、個別支援等で、発達の回復が目指されますが、そのような時間があればこども達は元気を回復し、心身共に健康な毎日を過ごせるのでしょうか?
答えは「No」です。心理療法やカウンセリングも、こども達には必要な関わりとなりますが、それよりももっと大切なことは、「安心して過ごせる、安全な毎日」を実感できることです。具体的に言い表すと、こども達の発達の回復に一番必要なことは、大人に「やってもらう経験」を毎日の生活の中で実感することです。
温かいご飯を3食作ってもらう、綺麗に掃除された部屋でのんびり過ごす、洗濯してもらった衣服を着て快適に過ごす……大人に「やってもらう」「大切にされる」ことが「あたり前」にある毎日。そんな日常を積み重ねる中で、こども達は本来もっているその子自身の力を回復し、発揮できるようになっていきます。
児童養護施設の職員にまず求められることは、「専門知識」や「技術」ではなく、こども達の「あたり前の生活」を守っていけることができる、普通の家事スキル!です。美味しいご飯、綺麗な衣服、整えられた生活空間。こども達のために行う1つ1つの家事が、こども達の心の栄養となり、生きる力の回復へと繋がっていきます。
「あたり前の生活」は、食事や清潔面だけで完成はしません。生まれてきたこども達は、本来は「あたり前に愛される」ことが保障される存在です。ただ実際には難しく、親にも様々な事情がある中で、時に不適切な関わりや、愛情表現になってしまうこともあります。
大人からの不適切な関わりや養育下で育ったこども達は、心身の発達に大きく支障を抱えます。特に他者に対する不信感や警戒心、怒りの感情が心に深く根ざし、人に対する言動や関わり方、自分自身についての適切な認識、理解がもてない状態に陥ることも多いです。その状態は、「不適切行動」「問題」として表面化し、その子自身が向き合っていかなければならない「課題」として現実生活に影を落とします。
悩みや不安、苦しみなく成長する人はいないと思います。ただ、児童養護施設で暮らすこども達が抱える「悩み」「不安」「苦しみ」等の多くは、その子自身のせいではなく、育ってきた過程や環境に原因があることも多いです。こども達が1人で苦しむことのないよう、根気強く向き合い、一緒に考えていく姿勢、どんなに「不適切な行動」をしていても、その表面的な行動だけに目を奪われずに、その子の「本当の気持ち」「想い」を理解したいと寄り添う姿勢、愛情が何よりも求められます。
保育園や幼稚園など、こどもに関わる多くの現場で、保育士は「先生」として存在することが多いです。ただ、児童養護施設ではその立ち位置は大きく異なります。保育士を含めたすべての大人は「先生」ではなく、共に生活をする「人」です。そのため、こども達への関わり方も大きく異なります。例えば、こども達が不適切な事をしていても、すぐに注意したり、お説教、指導したりはせず、その気持ちを一緒に共有、理解しようとしたり、「~~したら?」「〇〇のほうがいいんじゃない?」と同じ目線からの声掛けが大切にされます。
そのため、保育士を目指して勉強している学生さん等が、児童養護施設を訪れた際に「なんか、ゆるい感じがする」「職員さんとこども達が友達同士みたいに話してる…」と驚いた印象や、保育園などとの違いに気づいた感想を教えてくれることも多いです。
児童養護施設はこども達にとっての「家」です。家の中に「先生」がいたら…?「先生」と一緒に暮らすのは、疲れてしまいますよね。こども達の一番の「理解者」になることを目指して、一緒に生活をする場での大人は、こども達と対等な関係性を大切にしています。
児童養護施設に暮らすこども達のように「要保護児童」は、少子化にも関わらず増加の一途をたどっています。児童相談所に一時保護されている児童数は、常に定員超過しており、新規の児童相談所の立ち上げも加速しています。残念ながら「要保護児童」の減少は短い期間では見込めぬ現状にあり、児童養護施設が担う社会的意義や役割、必要性は年々高まっています。
児童養護施設に暮らす子どもにとって、職員は「親代わり」を担う人となります。つまり短い期間に度々交代されることは望ましくなく、「継続的に」「長期的に」こども達と関わることが求められています。そのためには職員の「労働環境」や「待遇」が良いものでないとなりません。
この視点から、近年、「労働環境」や「待遇」の改善が進められています。「休暇の取りやすさ」や「給与」が具体的に改善されている施設は多いです。
実際「給与」として見た際、保育園で働く「保育士」より、かなり高額な給与となります。それは保育所と違い、24時間、365日のこども達の生活を守っている現場であるため、「夜勤」や「宿直」等の勤務シフトもあり、基本給与と別に「手当」として加算される金額も毎月多くあるためです。
児童虐待やネグレクトのニュースが連日のように報じられていることからもおわかりのように、児童養護施設に入所する子どもの数は増加傾向にあり、そこで働く職員が必要とされています。
児童養護施設で生活をする子どもたちは様々な問題や心の傷を抱えているケースも多く、サポートする側も悩む場面は少なくなく、大変な仕事ではありますが、子どもたちに生きる希望を与えることのできるものであることは間違いありません。
「未来のある子どもたちの力に少しでもなりたい」そんな想いのある方は、児童養護施設で働くという選択肢についてもぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。
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